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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)3970号 判決

原告 株式会社ケン・コーポレイション

右代表者代表取締役 田中健介

右訴訟代理人弁護士 大杉和義

被告 株式会社ノムラ

右代表者代表取締役 野村克也

〈ほか一名〉

右被告ら訴訟代理人弁護士 佐伯仁

同 横山康博

主文

一  被告らは、原告に対し、金二五〇万円及びこれに対する昭和五八年五月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年一月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、不動産売買・仲介・管理等を業とする株式会社である。

(二) 被告株式会社ノムラ(以下「被告ノムラ」という。)は、同社の代表取締役野村克也の野球解説・講演等を主な業務とする会社であり、野村沙知代は右野村克也の妻で同社の取締役であるとともに、被告株式会社ディーアンドケイー(以下「被告ディーアンドケイー」という。)の代表取締役であり、被告ディーアンドケイーの役員は全て被告ノムラの役員を兼務している。

2  原告は、昭和五七年一〇月七日ころ、被告ディーアンドケイーの代表取締役であるとともに被告ノムラの代理人でもある野村沙知代から別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)の買受けのあっせん仲介の委託を受けこれを承諾し、被告らは右買受契約の成立を停止条件として相当額の報酬を支払う旨約した(以下「本件委託契約」という。)。

3  原告の従業員佐藤晋は、本件委託契約に基づき、昭和五七年一〇月一〇日、野村沙知代を本件不動産所在地に案内して、その説明をし、同人から買受けについての希望を聞いたうえで、本件不動産の売主である日広貿商株式会社(以下「日広貿商」という。)に対し、被告らが本件不動産の買受けを希望していること、および売却価格を三億円くらいまで下げて欲しいとの希望であることを報告した。

4  ところが、被告らは、原告の仲介を故意に排除して、昭和五八年一月二八日、日広貿商と直接本件不動産につき代金三億四〇〇〇万円で売買契約を締結し、同日被告らの持分を各二分の一とする所有権移転登記手続を了した。

5  よって、被告らは民法第一三〇条により前記停止条件が成就したものとして、そうでないとしても商法第五一二条に基づき、原告に対し相当額の報酬を支払う義務があるところ、その額は東京都告示第八九八号(昭和四〇年建設省告示第一一七八号)に定める最高限度額(売買代金額の三パーセントにあたる額に金六万円を加えた金額)とする慣行があるから、原告は被告らに対し、その内金一〇〇〇万円及びこれに対する売買契約成立の日の翌日である昭和五八年一月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、野村沙知代が被告ディーアンドケイーの代表取締役であることは認め、その余は否認する。

3  同3の事実のうち、野村沙知代が昭和五七年一〇月一〇日、原告の従業員から本件不動産の案内を受けたことは認め、その余は知らない。

4  同4の事実のうち、被告らが昭和五八年一月二八日、日広貿商と本件不動産につき売買契約を締結し、同日被告らの持分を各二分の一とする所有権移転登記手続を了したことは認め、その余は否認する。なお、右売買代金は、三億三〇〇〇万円であった。

被告らが、右売買契約締結に至った経緯は、被告らはかねて株式会社富士見商事(代表者武村譲)に不動産の仲介を依頼していたところ、昭和五七年一一月中頃、同社から物件紹介があり、本件不動産について売主立会のもとに現地案内を受け、同社の交渉によって売買契約締結に至ったものであるから、仮に被告らが原告に仲介を依頼したものとしても、原告の行為と本件売買契約成立との間には因果関係がなく、原告は報酬請求権を有しない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件委託契約の成立について判断する。

《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和五六年六月一一日、本件不動産の所有者であった日広貿商から売却委任を受けた佐藤商事株式会社との間で本件不動産売買の仲介契約を締結し、同五七年七月ころから毎月一回、本件不動産の売却仲介につき新聞により、目黒区ほか東京都区内に折込みチラシを配布するなどの広告活動を行っていた。

2  野村沙知代は、同年一〇月七日原告のもとへ架電し、「チラシを見たが、田園調布の物件はまだありましょうか。」「興味を持っているので今紹介していただきたい。」と申し出、翌八日原告の従業員である村上(旧姓佐藤)晋(以下「村上」という。)が野村沙知代を自宅まで迎えに行き本件不動産に案内することを約した。

3  右約束に従い村上は、翌八日野村宅に赴いたが、野村沙知代は留守のため会えず、同日夕方同人に電話をかけて、同月一〇日に本件不動産に案内することを約した。

4  村上は、同月一〇日、本件不動産を前もって掃除したうえ、野村沙知代を案内し、建物の中をすべて見せて説明をするなどした。その際、野村沙知代は村上に対し、「価格が三億円になるなら目黒の自宅を売却しなくても契約できる。それ以上なら目黒の自宅を売却しなければならない。」とか、「契約するにしても気学上今年でなく来年に入らないと契約できない。」といい、また、自宅を売却するときは原告に仲介を頼みたい等と述べ、三億円で買受交渉をするように依頼した。

5  村上は帰社してから、日広貿商の取締役であるとともに佐藤商事株式会社の代表者でもある佐藤豪洋に対し、本件不動産について被告らが買受けを希望していること及び売買代金を三億円にしてもらいたい旨を伝えた。これに対し佐藤豪洋は、売買代金は三億六〇〇〇万円まで値引することは考えていたが、それ以下ではむずかしい旨答えた。

6  その後村上が野村沙知代に電話した際、同人は、売買代金は三億円にしてほしいと強く希望し、さらに夫の野村克也にも本件不動産を見せたい旨を述べた。

7  また、原告の従業員榎本成一は、被告らの希望する価格に合う他の物件を勧め、同年一一月中旬、野村沙知代を世田谷区東玉川一丁目一二一番地所在の高城邸に案内したが、その際同人は榎本に対し、本件不動産の方が良い、代金がなんとかもう少し安くならないかと述べた。

8  その後原告は、被告らと連絡をとるため電話をかけたが、同年一一月中旬または末ころから被告らが留守のため電話をかけても連絡がとれなくなり、そうするうちに佐藤豪洋から、日広貿商の取引銀行の強い希望で本件不動産を直接売却しなければならなくなった、買主の強い希望でその名前は言えないという連絡を受けたため、原告は被告らとの交渉を打ち切った。

9  野村夫婦は、当時東京都目黒区緑が丘一丁目一六番二号に居住し、被告ノムラ及び被告ディーアンドケイーはいずれも同所を本店所在地としており、被告ノムラの代表取締役である野村克也は妻の野村沙知代が本件不動産買受けの交渉をすることを承諾していた。

10  被告らは、昭和五八年一月二八日日広貿商と本件不動産につき売買契約を締結し、同日被告らの持分を各二分の一とする所有権移転登記手続を了している(この事実については当事者間に争いがない。)。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右事実によれば、原告と被告らとの間に昭和五七年一〇月一〇日、本件不動産について買受け仲介の委託契約が締結されたものと認めるのが相当である。

三  次に、被告らと日広貿商との間の本件不動産についての売買契約締結の状況について検討する。

以上の確定した事実に、《証拠省略》を総合して考察すれば、次のような事実を認めることができる。

1  被告らは原告に前記価格交渉を依頼するかたわら、昭和五七年一一月ころ、野村沙知代と面識のあった富士見商事代表者武村譲に対し、本件不動産の買受けについての交渉を依頼し、これを受けた武村譲は、同月二四日、直接日広貿商から本件不動産の資料を入手し、交渉しようとしたが、日広貿商はすでに原告に仲介を依頼してあるとしてこれを断わったため、成功しなかった。

2  そこで、被告らは、日広貿商の主要取引銀行が三菱銀行六本木支店であるところから、同支店長に紹介を依頼し、その紹介を受けて日広貿商に対し業者を抜いて直接取引にしてほしい旨、また買主名は伏せてほしいと述べたところ、日広貿商はこれに応ずることとしたが、その際、同社は売却を依頼している仲介業者に対しては同社において謝礼を出すから、被告らが依頼している仲介業者に対しては被告らにおいてけじめをつけておいた方がよい旨を述べ、両者が直接価格の交渉をした結果、同年一二月二五日、代金は三億三〇〇〇万円とすることでほぼ交渉がまとまり、翌昭和五八年一月二八日、日広貿商と被告らとの間に、本件不動産について正式に売買契約が成立した。そして、日広貿商は原告に対し、前記広告に要した費用として金五〇万円を支払ったほか、他の物件の仲介を依頼し、本件不動産の売買仲介に関する日広貿商側の謝礼支払について解決した。

《証拠判断省略》

以上の事実によれば、本件売買契約の締結に端緒を与えたのは原告の本件不動産の案内行為であることは明らかであり、原告が交渉を継続しようとしているのにかかわらず被告らは、原告の仲介を排除して日広貿商と直接交渉を開始して右売買契約締結に至ったものであって、被告らは原告の仲介による売買契約の成立を妨げる故意があったものと推認すべきである。

そうすると、原告は被告らに対し、民法第一三〇条に照らして、原告の仲介行為により本件売買契約が成立したものとみなして、相当額の報酬を請求することができ(原告と被告らとの間の本件委託契約締結に際し、その報酬支払に関し合意がなされたことを認めるに足りる証拠はないが、原告が本件不動産売買・仲介等を業とする商人であることは当事者間に争いがないから、商法第五一二条により、原告は相当額の報酬を請求しうるものと解するのが相当である。)、本件訴状をもって原告がその仲介行為により本件売買契約が成立したものとみなす意思表示をしたものと解するのが相当である。)。

四  そこで原告の請求しうる報酬の額について判断する。

原告は、報酬の額について、原告主張の告示に定める最高限度額によるとの慣行がある旨主張するが、本件のように仲介業者を排除して契約成立に至った場合まで当然に右告示に定める最高限度額による報酬額を請求しうるとする慣行があることを認めるに足りる証拠はなく、またそのように解する根拠はないから、報酬額は、本件における諸般の事情を総合勘案して、その相当額を算定すべきものであるところ、前記認定のとおり、原告は、被告らの委託により本件不動産を案内し、これに関する情報を与えたものの、価格の点につき日広貿商に電話によって被告らの希望価格を取次いだにとどまり、それ以上に本件不動産の売買契約成立のための折衝、契約の締結とこれに伴う事務処理等には関与していないこと、本件不動産の売買代金は三億三〇〇〇万円であること、原告は売主日広貿商側から前記謝礼を得ていること、その他諸般の事情を総合勘案すると、原告の請求しうる報酬額は金二五〇万円をもって相当と認める。

五  よって、原告の本訴請求は、金二五〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五八年五月一日(報酬金支払時期の約定があったことの主張立証はなく、前示のとおり本件訴状の送達をもって、原告は、その仲介行為により本件売買契約が成立したものとみなす意思表示をするとともに、報酬金の支払を請求したものと解すべきであるから、遅延損害金の発生は右訴状送達の日の翌日からと解するのが相当である。)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 長野益三 吉波佳希)

〈以下省略〉

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